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地理・地名

東北6県の悲願「白河の関越え」、福島県いわき市の高校が甲子園優勝したら「勿来の関越え」になるのか

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引用元:https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/access/ken.html
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積年の悲願、紫紺・深紅の優勝旗「白河越え」

夜間の雪国

昼夜問わず地面を覆う雪。野外練習に大きな支障をきたします

「北海道や東北みたいな寒い地域は雪が積もるから野球に向かない」。

そうした俗説を裏付けるかのように、長い歴史を持つ春夏の甲子園において北海道と東北6県に優勝旗を持ち帰る高校は近年まで現れませんでした。

いつしかその挑めども阻まれる様子を歴史上の要塞に例えて

大優勝旗が白河の関を越えない

と表現されるようになったのでした。

南北海道、駒大苫小牧の衝撃

そうした状況が一変したのが2004年夏。南北海道代表の駒大苫小牧が優勝したのです。

03年には倉敷工(岡山)に大量リードしながら降雨ノーゲーム→翌日に敗北、という辛酸を嘗めていた駒苫。

初戦で佐世保実(長崎)に勝利、これが春夏通じ5回目の出場で初の白星でした。

北海道勢の夏50勝目でもあったこの1勝で勢いづくと、日大三(西東京)、横浜(神奈川)、東海大甲府(山梨)と並み居る強豪校に競り勝ち、決勝でも済美(愛媛)と乱打戦を繰り広げた末に13対10で振り切り。

深紅の優勝旗は白河の関どころか、津軽海峡をも越えたのです。

翌05年には史上6校目の夏連覇、06年には斎藤佑樹・早稲田実と死闘を演じ準優勝に輝いたのはご存知の通りです。

「苫小牧までは空路なので白河関は越えてない」

空を飛ぶ飛行機

こんな逸話があります。

駒大苫小牧ナインが激戦を終えて搭乗した帰路の機内に、アナウンスが流れました。

「ただいま当機は津軽海峡上空を通過しております。甲子園の優勝旗が初めて津軽海峡を渡りました」

航空会社の粋な計らいに、他の搭乗客からも大きな拍手が上がったといいます。

 

しかし、世間ではこの「白河越え達成」に物言いが付きました。要するに、

現に白河関のあった場所を通過するでもなく空路で優勝旗を運んだのだから、まだ白河越えは成し得ていない

というものです。

こうなると言葉遊びに近い感もしてきますが、確かに開催要項でも

旅費は代表校の所在地から大阪までの往復普通乗車運賃(新幹線、特急、急行料金を含む)

(中略)

ただし、沖縄、南北北海道代表校は航空運賃を支給する

引用元:開催要項|第104回全国高等学校野球選手権大会

と規程されているのです。


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裏を返せば東北地方の代表校はやはり陸路で白河関を通過する必要がある。

そして、その東北6県が今なお甲子園制覇を成し得ていないのです。

福島県の南端・白河市は「みちのくの玄関」

東北軽視だった「白河以北一山百文」という言葉

宮城県松島町

便宜上北東北・南東北の分類こそあれど、やはり結びつきが強いのは“東北6県”

「白河以北一山百文」という言葉があります。

「白河より北の土地は山一つに百文の価値しかない」という、当時は薩長土肥の人間が東北地方を蔑む意味で用いたとされ、宮城の新聞社・河北新報も敢えてここから社名を取ったのだとか。

河北新報社 採用情報サイト
河北新報社の採用情報サイトです。河北新報社の概要や社員の声などを紹介しています。

現在の地図上で「白河の関跡」福島県白河市の南端、栃木・那須から北上する県道76号沿いにあります。

現に栃木県方面からは福島県境を入ってすぐの場所に関所が置かれている構図です。

東北地方を(場合により北海道も)まとめて「白河以北」と表現するのはこうした地理によるものであり、関跡からやや北西に逸れるものの旧奥州街道や東北自動車道、東北新幹線やJR東北本線など古今の重要路がいずれも白河市を通っています。

白河はまさに奥州の要、みちのくの玄関だったのです。

光星も仙台育英も金足農業も阻まれた

近年の甲子園で東北代表が目覚ましい躍進を遂げているのは紛れもない事実。

2010年代、春夏の甲子園における東北勢の決勝進出は以下のとおり5度に及びます。

  • 光星学院(青森)2011夏・12春・12夏
  • 仙台育英(宮城)2015夏
  • 金足農(秋田)2018夏

00年代には3度。20世紀には1915年夏の第1回大会で決勝進出した秋田中(秋田)を含め80余年で4度しか決勝進出がなかったことを思えば、もはや優勝の二文字も決して縁遠いものではなくなっていることに疑念はないでしょう。

しかし、跳ね返されます。光星学院は日大三(西東京)と大阪桐蔭(大阪)、仙台育英は東海大相模(神奈川)、金足農も大阪桐蔭の前に惜しくも散ったのでした。

【夏の甲子園】歴代優勝・準優勝校一覧 | BASEBALL KING
夏の甲子園、過去100回大会の歴代優勝校と準優勝校一覧。都道府県別の歴代優勝校を見ると、大阪が13回で最多、次いで愛知の8回、和歌山、広島、兵庫、東京、神奈川の7回と続く。

光星学院(現・八戸学院光星)は八戸市。八戸南インターを降りて東にキャンパスを置きます。

仙台育英の法人局は仙台市。野球場は楽天生命パークから仙石線でさらに東、多賀城市にあります。

金足農は秋田市の金足地区。秋田新幹線から奥羽本線に乗り換え、北上して追分駅で下車します。

地図を見れば、鉄道・自動車道いずれも白河を通らざるを得ません。

浜通り地方、いわき市はどうなるのか

東京近郊から常磐道・常磐線が伸びる浜通り

引用元:https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/access/ken.html

福島県のホームページの画像をお借りすると、県内の交通網は上のように図示されます。

件の白河関はというと、画像中央下。「中通り」地方に属します。実質的な交通上の要衝は白河から北上した県の中央部・郡山市が担っており、そこから西に会津地方、北に県都の福島市や東北地方各地へと延伸していきます。

一方で、郡山からはやや後退する形で東に逸れた先にあるのがいわき市郡山市と「仙台に次ぐ東北第2位」の座を争っている人口32万人台の中核市です。

地図を見れば分かるとおり、「浜通り」地方の最南端に位置するいわき。その交通路には、東北自動車道や東北本線と並行するように海沿いを北上する常磐自動車道や常磐線が伝っています。

常磐自動車道・常磐線、いずれも首都圏から独立して宮城県南東部まで伸びる幹線です。あえて東北道で白河を越え郡山まで出る理由はないでしょう。

東海道新幹線から品川乗り換え、常磐線特急ひたち

例えば、同市の磐城高校。甲子園出場歴も複数回あり、1971年夏の甲子園では県勢最高記録の準優勝を果たしている実力校です。

引用元:https://www.google.com/maps/

平日午前に西宮を発つ場合、Googleマップでも品川で特急「ひたち」に乗り換えるよう案内されました。やはり、白河は通過しません。

それでは、浜通りにおいて優勝旗の通過を阻んできた関所とは何処か?白河の関に並ぶ奥州三関の一つ、いわき市勿来町の「勿来関」が位置的には該当するのでしょうか。

勿来関跡
「来る勿れ」(くることなかれ)の勿来関|白河の関(福島県白河市)・念珠ヶ関(山形県鶴岡市)と共に奥州三関のひとつに数えられている、勿来関の跡地です。 「来る勿れ」(くることなかれ)という枕歌で知られる文学上の関として知られています。 周辺は県立勿来自然公園に指定されており、四季を通して楽しむことができます。 【合わせて...

「来る勿れ」(くることなかれ)というその名前からして来る者を跳ね返す強靭な力を漂わせますが、歴史学的には実在する関所ではないとするもあるのだそう

いずれにしても、その日が訪れた時に「白河以北」が東北6県を包括する言葉として適用されるのか。

それとも地理学上のマナーに厳格に従い、なおも白河関は越えてないと言い張られるのか。外部からそんな声が挙がれば無理やり磐越東線を使って凱旋する手が取られるかもしれません。

浜通りはいわきだけではありません。北中部、相双地域でも過去に双葉高校が甲子園に3度出場しています。現在双葉高校は震災の影響で休校中ですが、近年開校した県立ふたば未来学園高校が県大会でベスト4に進出するなど十分実力を秘めています。

議論が本格化するのも、遠い話ではないかもしれません。

2022年、ついに仙台育英が悲願成就

そのようなことを言っている間に、2022年夏の甲子園。

仙台育英高校が悲願の初優勝、文句無しの「白河の関越え」と相成りました。

おめでとうございます!

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